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東京高等裁判所 平成11年(ネ)5233号 判決 2000年7月05日

控訴人兼被控訴人(以下「一審原告」という。) 株式会社 柚木そごう

右代表者代表取締役 池田修一

右訴訟代理人弁護士 堂野達也

同 堂野尚志

同 広瀬正司

同 中山雄介

同 中山二基子

同 橋爪健一郎

被控訴人兼控訴人(以下「一審被告」という。) 東京都

右代表者知事 石原慎太郎

右指定代理人 江村利明

<他2名>

主文

一  一審原告及び一審被告の本件各控訴をいずれも棄却する。

二  控訴費用は、一審原告の控訴に関する部分は一審原告の、一審被告の控訴に関する部分は一審被告の各負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  一審原告の控訴

1  一審原告

(一) 原判決を次のとおり変更する。

(二) 一審被告は、一審原告に対し、九億五三五二万七〇〇〇円及びこれに対する平成九年二月一五日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

(三) 訴訟費用は、第一、二審とも、一審被告の負担とする。

(四) 仮執行の宣言

2  一審被告

(一) 一審原告の本件控訴を棄却する。

(二) 控訴費用は、一審原告の負担とする。

二  一審被告の控訴

1  一審被告

(一) 原判決中一審被告敗訴部分を取り消す。

(二) 一審原告の請求を棄却する。

(三) 訴訟費用は、第一、二審とも、一審原告の負担とする。

2  一審原告

一審被告の本件控訴を棄却する。

第二事案の概要

本件の事案の概要は、次の一ないし九のとおり原判決を訂正し、又は付加し、一〇のとおり当審における当事者双方の主張を付加するほかは、原判決の「第二 事案の概要」に記載のとおりであるから、これをここに引用する。

一  原判決五頁七行目から同一〇行目までを次のとおり改める。

「2 そして、開発センターは、当初、事業計画の概要として、実施時期を昭和六三年度から平成二年度とする第一期分(平成三年三月開業予定)について、地上三階・地下一階・延床面積二万六八五〇平方メートルの商業ビル(商業一号館)を、実施時期を平成三年度から平成四年度とする第二期分(平成五年開業予定)について、地上三階・地下一階・延床面積二万〇一〇〇平方メートルの商業ビル(商業三号館)及び延床面積一万六八〇〇平方メートルの駐車・駐輪ビル二棟を、実施時期を平成五年度から平成八年度とする第三期分(平成九年開業予定)について、地上三階・地下一階・床面積一万四四〇〇平方メートルの商業ビル(商業二号館)、地上七階・床面積七〇〇〇平方メートルの事務所ビル及び地上二階・床面積一万三〇〇〇平方メートルの多目的文化施設をそれぞれ建設する計画を立てたが、その後、そごうグループからの後記出店申込みを受け、その要望を取り入れるなどして右計画を変更し、実施時期を平成二年度から平成三年度とする第一期分(開業時期平成四年度)として、八王子市南大沢二丁目二八番地一に「ガレリア・ユギ」の名称の地下二階・地上六階・塔屋一階・延床面積四万四〇〇〇平方メートルの商業ビル及び地上一部一〇階・延床面積二万四五〇〇平方メートルの複合ビルを建設することとした。

二  《証拠改め省略》。

三  《証拠改め省略》。

四  《証拠付加省略》。

五  《証拠改め省略》。

六  原判決一一頁五行目の「本件店舗が」を「本件店舗を」と改める。

七  原判決一七頁二行目の「被告」を「一審原告」と改める。

八  原判決一九頁二行目の「六月に」の次に「本件店舗の」を加える。

九  原判決二一頁六行目の「本件譲渡契約」を「本件土地譲渡契約」と改める。

一〇  当審における当事者双方の主張

(一審被告)

1 本件違約金規定は、債務不履行による損害賠償額の予定であるが、この賠償額の予定がされているときは、裁判所はその額を増減することができない(民法四二〇条一項後段)。通説及び判例は、債務の不履行又は損害の発生につき債権者に過失があるときは、右予定賠償額を減額することができるとしているが、これは過失相殺の法理に基づくものである。信義則により予定賠償額の減額を認める学説・裁判例もあるが、減額が認められるのは「著しく信義則に反する結果を導く特殊の事情がある場合」に限っている。一般条項を通じて明らかに明文規定に反する解釈をするためには、この程度の要件は当然必要と解すべきであり、単に当事者間の衡平を図るためとして予定賠償額を減額することは許されないというべきである。

2 右の観点から本件をみると、一審被告に過失がないことはもちろん、左の事情からは、著しく信義則に反する結果を導く特殊の事情もなく、さらに、当事者間の衡平を図るために違約金を減額すべき事情も見いだし得ないから、違約金の減額は認められるべきではない。

(一) 一審被告は、一審原告の債務不履行により本件土地を買い戻すに当たり、本件土地の価格が大幅に値下がりしているにもかかわらず当初の譲渡代金四七億六七六〇万円余でこれを買い戻し、その後、東京トヨペット株式会社に代金二二億一〇六〇万円余で譲渡したが、この差額が一審原告の債務不履行によって一審被告が受けた損害であり、これに一審原告から支払を受けた使用料相当額及び違約金全額を補填しても、八億円を超える莫大な損失である(この金額と一審被告が支払うべき違約金額とがほぼ見合っている。)。

なお、一審原告の債務不履行に伴い契約関係を清算する方法としては、本件土地譲渡契約による買戻しのほかに、これによらない新たな合意解除も可能であったが、新たな解除契約による場合は、本件土地の買戻し価格は、買戻し時の時価(当初の半額以下である。)にならざるを得ず、その場合には本件違約金規定の適用がないとしても(使用料相当額は、この場合にも当然に支払われるべきである。)、一審原告に生じる損害は本件土地譲渡契約による買戻しの場合より更に大きくなる。一審被告は、一審原告の受ける損失が最小限にとどまるように(その結果、一審被告の負担は増大した。)本件土地譲渡契約に基づく買戻しと本件違約金規定の適用を選択したのである。

(二) 一審被告は、一審原告が支払うべき本件土地の使用料相当額の算定に当たり、契約上の文言を形式的に適用しないことにより、一審原告の負担の実質的な軽減を図った。すなわち、使用料相当額を契約文言どおりに計算すると、計算の基礎となる使用期間は平成三年三月から平成八年六月までとなるところ、実際にはその期間を平成四年二月から平成六年一〇月四日までとして計算し、その結果、一審原告にとって合計六億六〇〇〇万円を超える負担軽減となっている。

(三) 一審原告の「ガレリア・ユギ」への出店が決意されるに当たり、開発センターが周辺地域の居住人口計画や業務施設等の建設計画を説明したとしても、これらの行政計画は、いずれも出店が決意された昭和六三年当時の社会経済情勢を前提として策定されたものであり、その性格上、その後の事情の変化(予測を超える場合もある。)に応じて修正を余儀なくされることは不可避であり、このことは経験則上も否定できない。したがって、一審原告の右居住人口計画や業務施設等の建設計画への信頼は、出店という経営判断に当たって考慮された一つの主観的事情にすぎず、右の計画の見直しや修正が一審原告の期待利益に影響を及ぼしたとしても、これから直ちに一審被告がその期待利益を左右したと評価されるべきではない。一審被告は、一審原告の出店継続が業務施設等の建設計画等の今後の推進に少なからぬ影響を与えるものとして、その経済波及効果に多大の期待を寄せていたところ、一審原告の予期に反する店舗閉鎖により、一審被告の期待利益は事実上失われ、右の計画推進に支障が生じたのであるが、これが一審被告にとって政策判断の範囲内のことであるのと同様、一審原告にとっても、行政計画の見直しや修正が一審原告の期待利益に及ぼした影響は、経営判断の範囲内のことであり、信義則の適用に際して評価の対象として斟酌すべき事情には当たらない。

(四) 開発センターは、業務施設等の建設計画につき、一審原告や忠実屋の出店意向を受け、一審原告らの大型店としてのテナント確保と長期的な経営戦略に便宜を図るため、平成三年四月に一審被告の承認を得た上で、第一期の当初施設整備計画の規模を変更し、第二期の事業計画を一部前倒しする形で建設に着工し、一審原告の出店要請に対応できる受け皿つくりに積極的に取り組んできたのであり、このことと開発センターが業務施設等の建設計画を大幅に見直したのが当時の社会経済情勢の変化の下で不可避の選択であったことと併せ考えれば、信義則の適用の上で、業務施設等の建設計画の大幅な見直しが本件店舗の閉鎖の原因の一端であるということはできない。

(五) 本件土地譲渡契約締結後の後方支援施設の建築義務の履行につき、一審原告は、平成三年三月末までには本件土地の東端部分を除く大部分の引渡しを受けていて、高層建物の建築にほとんど支障がなかったのであり、また、右東端部分の引渡しは、平成四年一月末にずれ込んだものの、平成三年一二月まで遅れることは一審原告も了承していたのであるから、右一か月の引渡しの遅延は一審原告の建築義務不履行を正当化するものではなく、むしろ、本件土地譲渡契約締結後短期間のうちに一審原告が簡易建物の建築を申し入れて本格的な後方支援施設の建築義務の履行を事実上放棄したのは、背信的行為というべきものである。一審被告は、右簡易建物の建築を了解したが、それを右建築義務の履行として容認したのではなく、あくまで暫定的措置として認めたにすぎず、一審被告の右了解は、一審原告の右建築義務の不履行に関しては何の影響も及ぼすものではない。

(六) 本件店舗閉鎖の方針決定後、一審原告が一審被告らと協議を重ね、後継テナント開拓に努めたのは、一審原告を含めたそごうグループのいわば社会的責任の一端として又は本件土地譲渡契約に伴う信義則上の付随的義務の履行としてされたものであり、何ら特筆すべき事情ではなく、違約金の減免についての信義則の適用上評価の対象となり得ない。

(一審原告)

1 本件土地譲渡契約一六条一号の買戻し事由の存否等について

(一) 判例(最高裁第一小法廷昭和五二年三月三一日判決・判例時報八五一号一七六頁)は、債務不履行において債務者の責めに帰すべき事由がない場合として、債務者に故意又は過失がない場合のほか、債務者に債務不履行の責任を負わせることが信義則上酷に失すると認められる事由がある場合も含むとしており、右判例の趣旨は違約金条項の適用が問題となる本件にも及ぼされるべきであるが、本件店舗の閉鎖に一審被告側の事情も強く作用している本件において、一審原告に違約金の支払を強いることは信義則上酷に失し、この点からみても、本件店舗閉鎖につき一審原告の責めに帰すべき事由はないというべきである。本件店舗閉鎖が本件土地譲渡契約一六条一号の自らの都合による店舗施設の運営停止に当たるとすべきではない。

(二) 本件土地譲渡契約一六条一号の買戻し事由は、その括弧書き部分を含めて全体としてみると、本件土地が本件店舗の支援施設の用地以外の用途に使用された場合を指すものと解すべきであるところ、一審原告は、本件土地を本件店舗の支援施設の用地以外に使用したことはなく、右買戻し事由は存在しない。

2 信義則による違約金の減免について

(一) 一審被告の主張2(一)について

本件土地の価格が半額以下になったことについては証拠の裏付けがなく、また、土地価格の下落を反映させて買戻し価格を決定するのは、後記のとおり、その形式いかんを問わず不合理であるから、時価による買戻しと本件土地譲渡契約による買戻しを比較すること自体が想定され得ない。しかも、一審原告と一審被告との間における本件土地の返還交渉において、一審被告が時価による買戻しと本件土地譲渡契約による買戻しを比較した上で一審原告の利益を考えて後者を選択したことを窺わせるやり取りは全くない。

一審被告が本件土地を当初の譲渡価格で買い戻し、東京トヨペット株式会社に下落後の価格で譲渡したことによって損失を受けたとの主張については、本件土地が新住法の目的達成のために造成・譲渡された土地であり、使用目的と譲渡に厳しい制限が付されていたこと及びその使用目的を維持し得なくなったことに一審被告が強く影響を与え、一審原告としては一審被告に返還せざるを得なくなったという事情の下で、一審被告が当初の譲渡時から買戻しまでの間の価格下落の負担を一審原告に押し付けることは、著しく衡平を失する。また、一審被告は、本件土地を一坪五五〇〇円という極めて低廉な価格で取得したから、造成費用を含めても原価は一平方メートル当たり九五万円(一審原告への当初譲渡価格)はもちろん一平方メートル当たり四四万五〇〇〇円(東京トヨペット株式会社への譲渡価格)よりはるかに低額であり(なお、一審被告は、本件土地譲渡契約が締結される約六か月前に南大沢駅や同駅前広場に隣接する最高に条件の良い土地を、開発センターに一平方メートル当たり四五万八四一〇円で譲渡している。)、新住法の目的達成という公益目的のために本件土地を取得・造成・譲渡した一審被告が、その返還・再譲渡で生じた価格差を一審原告に填補させることなど到底正当化することはできない。

(二) 一審被告の主張2(三)について

居住人口計画及び業務施設等の建設計画を策定したのは一審被告ないし一審被告が関与する開発センターであり、それを信頼して出店した一審原告が計画と実際との著しい乖離に強く影響を受けて店舗閉鎖に至ったことは争い得ない事実であり、その結果本件土地が返還されることになったのであるから、それについて計画破綻の事実が考慮されなければ当事者間の衡平は図り得ない。また、本件店舗閉鎖によって一審被告の業務施設等の建設計画に支障が生じたのではなく、同計画は本件店舗閉鎖以前に破綻していたのであり、本件店舗閉鎖は、一審被告の計画の破綻という大きな流れの中の一つの現象にすぎない。また、一審被告は、当初計画どおりに推進することは巨大な事業損失を被ることになり、計画を当初のとおりに遂行することは不可能であったと主張するが、一審原告は、当初計画どおりに事業を推進すべきであるとまで主張するものではなく、単に、計画の変更が本件店舗閉鎖に大きく影響した事実と、予期し得ぬ経済事情の変更により双方がそれぞれ被った損失を超えて、一審被告が一審原告から一方的に高額の違約金を取得することがあまりに衡平を欠くということを主張しているのである。

(三) 一審被告の主張2(四)について

一審被告は、一審原告のために第二期の事業計画を前倒しして建設に着工したといいながら、その僅か一年後で本件店舗の開店直前の平成四年四月、一審原告が集客、売上予測の算定に当たり重要なポイントと考えていた南大沢駅前に建設予定の第二ビルの着工を延期し、多目的文化施設や業務ビル二棟の建設も延期するなど、一審原告の当初の予測を全く裏切る形で計画変更を断行し、それに大きな影響を受けて本件店舗閉鎖に至っているのである。したがって、一審被告のいう積極的取組なるものは、ほとんど考慮に値しないといってよい。また、一審被告又は開発センターの右計画変更が当時の社会経済情勢の変化の下で不可避の選択であったとしても、この評価は変わらないというべきである。

(四) 一審被告の主張2(五)について

一審原告が簡易な建物を建築したことが後方支援施設の建築義務違反に当たらないことは、従前の主張どおりである。一審被告から土地の一部引渡し延期の申入れがあり、一審原告がやむを得ずこれを受入れたのは、公共団体と民間の一企業との間の事実上の力関係によるものであり、この力関係において、一審被告が簡易建物の建築を了承したことは、一審被告がこれを何ら問題視していなかったことを示している。なお、本件土地には山ともいうべき高台の部分が含まれ、高層建物を建築するには全体を平らな土地にする必要があったが、それは簡単にはできなかった。引渡し未了の土地について、引渡し時期を明確にせず、所有権移転の日付けだけは前倒しにして、引渡しが遅れ続けても右所有権移転の日付けから三年以内に建築しなければならないというのであれば、建築すべき建物が高層でなくてもよいのはもちろん、三年よりはるかに短い期間に建築すべき建物が「後方支援施設」でさえあればよかったことは、あまりに明らかである。また、仮に一審原告の建築すべき建物が高層建物であったとしても、新住法三一条、同法施行規則一八条の二によれば、高さ三一メートルを超える高層建築物の建築期間は、土地譲受けの日の翌日から五年以内とされていて、一審原告が一審被告から本件土地全部の引渡しを受けたのは平成四年一月末であるところ、一審被告が買戻しの意思表示をしたのは平成八年六月一四日であるから、この時点ではいまだ建築期間の五年は経過していなかった。したがって、本件土地に建築すべき建物については、一審原告に何らの違法もなかったことになる。

(五) 一審被告の主張2(六)について

本件店舗閉鎖を決定した後、一審原告は、一審被告の要請により、自らの損失拡大を甘受しながら閉店時期を延期し、相当の人員を割き、有料のコンサルタント会社に依頼するなどして後継テナント開拓に協力し、数店の出店確約を一審被告にもたらし、本件店舗閉鎖後も、一審被告の要請を受けて、後継テナントとの賃料・保証金交渉、通産省への大店法に基づく申請手続等の打ち合わせなどにも全面的に協力し、二か月後の再開店実現に尽力した。これらの事情が高額の違約金の信義則による制限について考慮すべき事情に当たらないとするのが失当であることは明らかである。

(六) 一審原告が本件店舗閉鎖につき開発センターと和解を成立させ、高額な解決金を支払ったことについて

一審原告は、平成八年一一月六日、八王子簡易裁判所において、開発センターとの和解を成立させ、本件店舗に係る建物賃貸借契約の合意解約と明渡し完了を確認し、開発センターに対して合計一一億一八二六万二〇〇〇円の解決金等を支払い、同和解条項に定める以外に何らの債権債務関係がないことを確認している。開発センターが右のように高額の解決金を取得しながら、一審被告が本件で高額の違約金の取得を主張するのは、いわば二重取りと評されてもやむを得ないようなあまりに過酷な公序良俗に反するような対応といわざるを得ない。

第三証拠《省略》

理由

一  当裁判所も、一審原告の本件請求は原判決が認容した限度で理由があり、その余は理由がないものと判断する。その理由は、次の1ないし7のとおり原判決を訂正し、又は付加し、8のとおり当審における当事者双方の主張に対する若干の判断を付加するほかは、原判決の「第三 争点に対する判断」に記載のとおりであるから、これをここに引用する。

1  原判決二九頁一一行目の「住宅都市整備公団」を「住宅・都市整備公団」と改める。

2  原判決四〇頁六行目の「しかし」の次に「、本件違約金規定中にそのような趣旨を窺わせる文言は含まれていない上」を加える。

3  原判決四一頁一行目の「本件土地譲渡契約」から同二行目の「といって、」までを「民法五七九条ただし書は、別段の意思表示により別異の合意をすることを許容しており、右ただし書の定めと異なる約定をすることも許されるのであるから、本件土地譲渡契約において買戻しの際に代金の利息は返還しないものとしつつ、使用料相当額を徴収するものとし、さらに、違約金の支払を求めることができる旨を約定したからといって、何ら新住法及び民法の買戻しに関する規定ないしその趣旨に反するものとは解されず、他に」と、同四行目の「根拠にはならない」を「根拠は見当たらない」とそれぞれ改める。

4  原判決四三頁六行目の次に行を改めて次のとおり加える。

「 一審原告は、新住法三一条、同法施行規則一八条の二によれば、高さ三一メートルを超える高層建築物の建築期間は、土地譲受けの日の翌日から五年以内とされていて、一審原告が一審被告から本件土地全部の引渡しを受けたのは平成四年一月末であるところ、一審被告が買戻しの意思表示をしたのは平成八年六月一四日であり、この時点ではいまだ建築期間の五年は経過していなかったから、本件土地に建築すべき建物については、一審原告に何らの違法もなかったと主張するが、前示のとおり、一審原告は、本件土地譲渡契約の締結に当たって「高層」の建物を建築する予定であったのであり、その七条二項でその建築期間を遅くとも本件土地の所有権が移転した日から三年以内と約束したのであるから、右法律の規定にかかわらず、本件土地譲渡契約の条項に違反したことは明らかである。また、一審原告が一審被告から本件土地全体の引渡しを受けたのは、前記のとおり、本件土地譲渡契約が締結され、本件土地の所有権が一審原告に移転してから一〇か月以上後の平成四年一月末日であったが、一審原告が本件店舗を閉鎖した平成六年一〇月三日当時一審原告が右「高層」の建物の建築に着手していて、右本件土地引渡しの時から三年以内(平成七年一月末日まで)にその完成が見込まれていたことについては主張も立証もないのであるから、右本件土地の引渡し遅延を考慮しても、本件土地譲渡契約における建物建築義務違反の責めは免れないというべきである。」

5  原判決四四頁一行目の「そうすると」を「4 そうすると」と、同七行目の「右規定は、本件譲渡契約」を「右一六条一項一号の規定は、本件土地譲渡契約」とそれぞれ改める。

6  原判決四五頁八行目の「本件譲渡契約」を「本件土地譲渡契約」と改める。

7  原判決四七頁三行目の「本件土地譲渡契約」の次に「締結」を加える。

8  当審における当事者双方の主張について

(一)  一審原告は、当審においても、本件土地譲渡契約一六条一項一号に定められた買戻し事由は生じていないと主張する。しかし、前示のとおり、本件店舗閉鎖は、右一六条一項一号所定の自らの都合による店舗施設の運営停止に当たると認められるのであり、本件において、右事由に基づき本件土地を買い戻し、本件違約金規定を適用することが直ちに信義則上一審原告にとって酷にすぎるともいい難いから、右主張は、採用しない。

(二)  信義則による違約金の減免について

(1) 一審被告は、一審原告の本件店舗閉鎖及び建築義務違反につき一審被告に過失はなく、本件違約金規定をそのまま適用することによって著しく信義則に反する結果を導く特殊の事情もなく、さらに、当事者間の衡平を図るために違約金を減額すべき事情もないから、違約金の減額は認められるべきではないと主張する。

(2) しかし、一審原告が本件店舗の出店を決定した判断自体が一審原告の自主的な経営判断であることは否定できず、したがって、一審原告は、社会経済情勢等の変化の予測が外れた結果を基本的には自己の責任として引き受けなければならないことはいうまでもないところであるが、前記認定のとおり、一審原告は、開発センターが一審原告に対して説明した南大沢周辺地域の居住人口計画及び業務施設等の建設計画を信頼して本件店舗の出店を決定したのであって、開発センターが右計画を示して一審原告の前記判断に影響を与え、本件店舗の出店を決意させた事実を無視することは衡平の見地から相当でないのであり、一審被告が五割以上を出資する開発センターが社会経済情勢等の変化の予測を誤り、結果的には実現不能の計画を立て、これを実現可能なものとして一審原告に説明しながら、その予測がはずれたとみるや、自らは右業務施設等の建設計画を大幅に見直しておきながら、右計画が実現・達成されるものと信じて本件店舗を出店した一審原告に対しては、本件店舗の閉鎖は全面的に一審原告の経営判断の誤りによるものであるとして責めを負わせることは、著しく信義則に反するものといわざるを得ないものというべきである。確かに、一審被告又は開発センターが一審原告に対してした計画の説明をどのように評価するかは一審原告の経営判断に懸かることであり、右計画及びその説明は本件店舗を出店するか否かを決定するについての一つの資料にすぎないといえるかもしれないが、それが利害関係のない第三者に対する単なる説明ではなく、その説明に基づいて一審原告と開発センターとの間に本件店舗の賃貸借契約が締結され、また、それに伴って本件土地譲渡契約が締結されて法律関係が形成され、いわばその法律関係は一審被告又は開発センターの説明した計画が実現・達成されることを前提として成立しているものである以上、その前提が消滅したことによってその法律関係が解消される場合においては、その計画を立てて説明した責任を何らかの形で分担すべきことは当然であるということができる。

(3) さらに、一審被告は、一審原告の債務不履行により本件土地を買い戻すに当たり、本件土地の価格が本件土地譲渡契約締結時の半額以下に下落していたにもかかわらず当初の売買代金額で買い戻したことにより一審被告が莫大な損害を被っていること、本件土地の使用料相当額算定に当たって使用期間を一審原告に有利に取り扱ったこと、開発センターが一審原告の「ガレリア・ユギ」への出店意向を受けて業務施設等の建設計画を一部前倒しして建設に着工したこと、本件土地の一部の引渡しが遅れたことは建築義務不履行を正当化せず、むしろ、一審原告が本件土地譲渡契約締結後短期間のうちに後方支援施設の建築義務の履行を事実上放棄したのは背信的行為というべきものであること、本件店舗閉鎖の方針決定後に一審原告が後継テナント開拓に努めたのは何ら特筆すべき事情ではないこと等を指摘し、違約金を減免すべきではないと主張するが、右指摘の事情は、これらの諸点についての一審原告の反論及び既に説示したところに照らすと、いずれも違約金の減免をすべて否定すべき事情として十分に説得力のあるものとはいい難い。

(4) 他方、一審原告は、本件店舗閉鎖につき開発センターと和解を成立させて高額な解決金を支払ったことを本件違約金の減免事由として考慮すべきであると主張するようであるが、開発センターが本件店舗の賃貸借契約の終了に伴い高額の和解金の支払を受けたことと一審被告が本件土地譲渡契約の不履行に伴い違約金の支払を受けることとは別の問題であり、相互に関連させるべき理由は見当たらないから、右主張を採用することはできない。

(5) 結局、当審における当事者双方の主張を斟酌しても、違約金の減免についての原判決の認定判断は左右されないというべきである。

二  よって、当裁判所の右判断と同旨の原判決は相当であり、本件各控訴はいずれも理由がないから、これらを棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石井健吾 裁判官 櫻井登美雄 加藤謙一)

<以下省略>

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